精神障害者の無年金問題
障害者年金受給状況を通して

全家連年金問題研究会編

課題
1.精神障害の場合、拠出年金の保険料納付用件を満たさず無年金になることが多い。障害の程度を評価する基準が精神障害の社会的ハンディキャップを正しく評価していないことが根本にある問題。
2.精神障害の特徴がただでさえも複雑な障害年金の請求手続きをさらに困難にさせ、当然の権利行使すら難しくなっていること。そこでは、ソーシャルワーカーなど医療、保険、福祉分野で働く関係職員の支援する力の弱さが目立つこと。その理由の一つとして権利擁護の視点で書かれた実用的な精神障害者用の年金の「解説書」がないこと。

障害年金の効用と障害
現在、精神障害者の福祉とりわけ所得の保障というものを考えるとき、手だては生活保護か障害年金と言うことになる。生活保護は広く一般の生活困窮者を対象とする制度であり、障害を持つものに対する特別な所得保障ではない。一方、障害年金は障害者自身の障害の状態に対応したものであり、一定の要件を満たしさえすれば誰でもが受けれる制度である。

対人関係で緊張を生んだり、集中力が続かない等々の障害を持つ精神障害者にとって「就労」そしてこれによる全生活費の充足というのは、困難な場合が多い。要するに生活に見合った就労や収入の見通しが立てられない。しかし、障害者年金が受給されることによりある程度の裁量で自立することが可能になる。また、生活費全部を年金でまかなえなくても、年金で半分、就労で半分となるとかなり精神的に軽減される。また、自分の障害を受け止めるという側面もあり、自分なりに生きていくという指針にもなる。しかし、現実には、障害者年金を受けていることに対する社会の偏見や、家族にとって受給することにかなりの抵抗があり、相当な決心を要する場合も多い。また、診断書を書く医師をはじめ、地域の保健婦や医療関係者の間でも、障害の捉え方に微妙な食い違いが存在している。それは障害年金を受給するについての見解にも反映する。医師が診断書を書いてくれない。書いても症状のみに終始し、年金の診断書としては不十分なものがあったりという場合もある。また、身体障害者の場合は、本人が希望し要件が揃っていたら障害年金を請求することを止める人はまずいない。しかし、精神障害者の場合は、医療が重視されるあまり、障害者としての位置づけが確かなものになっておらず、社会の中での偏見・差別の存在、明らかな形で示すことのできにくい障害であることなどから、障害年金の申請を決心するまでの過程に障害の受容とは別の問題が存在している。

障害年金の受給状況

受給要件
20歳前に初診日のある人(無拠出)と、保険料の納付要件を満たして初診日のある人(拠出)が、障害認定日において障害の程度が年金の等級に当てはまれば受給できる。
障害認定日から1年以上たってから請求する場合を遡及請求といい、障害認定日の障害の程度が年金の等級に当てはまれば、請求したときから5年前までさかのぼった分も年金受給開始の時にまとめて受けることができる。
また、障害認定日には障害の程度が軽く、その後障害が重くなり年金の等級に当てはまる状態になれば、その時点で請求することを事後重症による請求といい翌月から年金を受給することになる。

1.精神障害が10〜20歳代発病が多く、見極めが難しいため初診日が遅れたり、生活全般が混乱して年金加入の手続きが遅れたりなどの悪条件が重なりやすい。一方、病気の症状は慢性化、長期化しやすくそれゆえの生活面での制限・制約は重い。
したがって、障害の程度は該当しても、もう一つの要件である初診日の時期の問題や保険料納付要件を満たせない場合が生じやすい。
2.精神障害での障害の客観化、基準化が国全体としても遅れており、現行年金制度での障害認定基準や「年金診断書」に対する共通理解や認識が、認定医のなかでも、まして「年金診断書」を作成する大勢の医者たちのなかでも得られていない。つまり受給要件の中の障害の程度の評価の部分がきわめて不安定である。
3.初診日から長期間(10年から15年以上)たってからの年金請求が多く、添付書類上の様々な不利益が生じやすい。

精神障害者の障害年金受給者のその8割は国民年金からの障害基礎年金でその7割が無拠出制である。しかし、20歳代になってからの発症が10代よりも多いことから、拠出制での納付要件がいかに難しいかということ。
また、5年以内に請求した人は23%で、5年以上しかも10年から15年以上たってから請求する人が大半である。
等級に関しては、国民年金からは1級が58%、2級が48%であるのに対し、厚生年金では、80%が3級となっている。今回の年金制度改正で障害等級表や障害認定基準が一本化されたにもかかわらず、同じような障害の状態にある人が厚生年金で請求するほとんどが3級になるという不可解さ。

無年金者の分類

真性無年金者
1.年金に加入していないときに初診日がある
2.加入後に初診日があるが納付要件を満たせない
3.旧制度における制度間の谷間にある人
4.停止、失権後の無年金者
5.脱退手当金をもらい資格を失った旧制度の人(一部)

仮性無年金者
1.カルテがなくて初診日に関する証明が取れない
2.障害基礎年金の現状届け出により2級非該当となっている
3.医療機関の認識不足による診断書の不備で非該当になったり、診断書を作成してもらえない。
4.行政窓口の誤認や申請者の理解不足で請求できない
5.認定基準の評価の違いで不支給になっている

具体的に言うと、10歳代で病気が始まっても初診が20歳を過ぎてしまう。20歳を過ぎても年金への加入を怠ってしまうという結果になりやすく受給要因が揃わない。さらに再発の際も被用者年金から国民年金への切り替えがスムーズに行われておらず未加入という状態を作ってしまう。加入していても未納が続いていたなどということがあり得る。
また、初診日の証明に関しては、比較的早期に障害年金を受ける気持ちを固める人も増えてきたが、長い療養生活のなかで障害年金を受ける気持ちを固めていく人たちが多いため、ケースによっては10年、15年たってから申請することも多い。しかし、カルテの保存期間が過ぎており、初診日に関する証明が取れないことが起きても不思議ではない。

問題点と今後への提起

問題点
精神障害者はなぜ無年金者が多いのか
上記のようなケースが後を絶たないからである。

救える無年金者も多い
問題を整理すると、
1.保険料納付要件が原因
2.障害の程度の評価が原因
3.その他書類が揃わない
1に関しては、社会的治癒の時期を持った後に納付要件を満たして年金申請ができたり、3に関しては、挙証書類を変わりに用意する、年金診断書を書く医師が障害の程度を見直して書き直すなどで受給の方向に持っていくなど、十分可能なことである。

望まれている適切な障害の程度への評価
認定医や年金診断書を書く医師たちのなかでの一定のものがなく、不安定であることから来ている年金不支給、非該当とされた人々、そして、年金受給後現状届けの年金診断書によって、停止、失権になった人々がいる。精神障害での社会生活面での障害は何か、その障害の特性にあった客観的な障害の程度を評価する基準が求められている。

今後の課題
1.障害年金制度の理解を深め、全員加入を促すための働きかけ。
→しっかりとした手続きの確立や透明性、マニュアル
→未加入、保険料滞納を原因とする新たな無年金者を作らないために、全員加入の方法を確立させる。そのためには、保険料免除規定・免除基準の改善が必要である。

2.障害認定基準、等級表、年金診断諸様式などの改正と適切な認定基準の確立
他の障害と較べて、一見自立しているように思われるが、幻聴、妄想に悩まされて食事をとっていることもあるし、限られた条件では働けるが、日常生活一般に関しては様々援助を必要とすることが多い。従って、現在の「年金診断書」の枠や基準には盛り込みにくく、記入しても、今度は認定の判断で不支給や非該当になることがある。一般化しても、国民年金における各県の認定医の差や、厚生年金、国民年金の間での認定の差などがある。

3.障害年金制度改正へのとり組み
かつて老齢年金のために行われた保険料の特例納付などを用いての救済策も考えられる。国民皆年金制度の土台を支え、保険料納付の力の弱い人々を抱えた国民年金が、その対象とする人々の年金の受給要件を守っていけるような工夫とそのための制度改革が求められている。

文中に使われた参考文献
「障害年金を受給していない精神障害者の実情」(愛媛医学9、金沢彰など)
「精神障害者が年金を受給できにくい理由」(第11回日本精神医学会で発表、金沢彰など)

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